【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「いやいや、壁の花に徹していたからね。つい構ってしまった。それじゃあ」

 ダヴィドはアナベルたちがマルトの(そば)にいることを見てから、別の場所に向かう。その姿を見送って、マルトに問いかける。

「マルト、あなたは踊らなくても良かったの?」
「わ、私のことはお構いなく……っ」

 アナベルに顔をのぞき込まれて、マルトは慌てたように手を振った。

「そう? ……さて、と。そろそろ良い時間ね」

 ちらりと時計を確認すると、アナベルはコラリーに声をかける。

「すみません、わたくしたちはこの辺で……」
「あら、もう帰ってしまいますの? 残念ですわ。今度はぜひ、エルヴィス陛下と参加してくださいね」
「ええ、もちろんですわ。また誘ってくださいませ。……わたくしも、誘ってよろしいですか?」
「もちろんですわ! お待ちしております」

 ふふっと笑い合うアナベルとコラリー。それを見ていたロクサーヌたちも、コラリーに今日のお礼を伝えていると、不意に会場の扉が開いた。

 コツコツと靴音を響かせて入ってきた人物――エルヴィス。

 彼はアナベルたちのもとへ、迷わずに足を進めた。

「――ベル」
「エルヴィス陛下! 今日はお忙しかったのでは……?」
「ああ。だから……迎えにきた」

 ざわっと一気に会場内が騒がしくなる。

 わざわざアナベルのことを迎えにきたということは、彼女のことを本気で大事に思っている証拠だからだ。
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