【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「それにしても、よくそんな嘘を思い付いたな?」
「嘘も貫き通せば真実と変わりませんわよ、陛下。数ヶ月後とはいえ、『重傷者』が舞踏会でピンピンしているのを見て、どんな顔をするのかが楽しみですわぁ」

 声を弾ませるアナベルに、エルヴィスは両肩を上げた。

 会場までつき、馬車を降りる。

 差し出された手を取り、エルヴィスを見上げると彼はこう(たず)ねた。

「――覚悟はできたか?」
「あら、陛下。覚悟なんて――この話を受けたときからありますわ。楽しみですわね、彼女がどんな反応をするのか」

 エルヴィスはふっと目元を細めてうなずいた。彼にエスコートをされながら歩く。

 国王陛下が到着したことを知らせる音楽が流れ、扉が開かれた。

 会場に集まっている貴族たちが、エルヴィスたちに視線を集中させる。

 王妃イレインではなく、寵姫(ちょうき)とともに入場してきたエルヴィスに、彼らは戸惑いを隠せないようだった。

 先にきていたロクサーヌたちは、アナベルたちの姿を見て微笑む。

(――堂々としているわね)

 綺麗に着飾ったアナベルたちを見て、貴族たちは息を呑んだ。

 愛おしそうにアナベルを見つめ、会場へ足を踏み入れたエルヴィスは、迷うことなく、真っ直ぐに自分が座るべき場所へと歩む。

 階段の上に、国王夫妻が座る椅子が用意してある。しかし、王妃の姿はない。

 それどころか、エルヴィスはアナベルに王妃イレインが座る場所を指し、座らせた。

「どういうおつもりですか、エルヴィス陛下! 王妃である(わたくし)を差し置いて、その女をパートナーにするなど!」
「そう怒るな、イレイン。――私はお前を誘ってはいなかったろう?」

 くつくつと喉を鳴らしながら笑うエルヴィスに、イレインは苛立ったように睨みつける。
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