【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 イレインは一人でこの会場にやってきた。

 綺麗に着飾り、口紅はお気に入りの赤色。

 会場に入れば、誰もがイレインに見惚れる――そう考えていただけに、この現状が信じられなかった。

 注目を集めているのは、アナベルのほうだった。

 そして、自分は困惑や好奇の目に晒されていることに気付いたイレインは、アナベルに視線を向ける。

 彼女は微笑む。誰をも魅了するような、愛らしさで。

 ――もちろん、自分の容姿の強みを知っているから、できることだ。

「――こうしてお話をするのは、初めてかもしれませんね。紹介の儀では、すぐに帰られましたし」

 当時を思い出して、アナベルは肩をすくめる。

「ああ、マルトは元気に働いていますよ。彼女は、わたくし側につくそうです」

 美しい微笑みのまま、淡々と言葉を紡ぐアナベルに、イレインはマルトが自分を裏切ったことを知った。

(――なんですって?)

 重傷と手紙に書いたマルトは、すでにアナベル側についていた……と理解したイレインは、唇をかみしめる。

 だが、すぐに気を取り直して扇子を取り出して広げると、口元を隠す。

「なんのことでしょう? さっぱりわかりませんわ」
「そうですか。……まぁ、証拠はありますので、構いませんが」

 ツカツカと足音を響かせながら、イレインは自分が座るべき場所に近付いていく。

「――わたくしは、あなたがどんなことをしてきたのかを知っていますわ。イレイン王妃。……あなたは、わたくしのことをご存知ですか?」
「卑しい踊り子が、話しかけないで!」

 イレインのその言葉が、会場に響いた。
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