【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

エピローグへの足音 2話

 会場内は困惑のざわめきが強くなっている。

 それに気付いているのかいないのか、イレインはアナベルをきついまなざしで睨み続けていた。

「そう、そうよ。卑しい踊り子が、(わたくし)の椅子に座るなんて、間違っています。さあ、すぐにそこからどきなさい」

「お断りしますわ、イレイン王妃。わたくしは陛下に望まれてこの場所に座っているのですから」

 アナベルは美しく、妖艶(ようえん)に微笑む。

 イレインの言葉など気にしていないように見えた。

「――踊り子を卑しい、なんて。そうせざるを得なかったわたくしたちに対して、失礼だとは思いませんか?」

 貴族に売られ、村を焼かれ、村のものすべてがなくなった。大好きな家族を失い、生き残る(すべ)など持たないたった五歳の少女。

 ――それが、アナベルだった。

「わたくしは故郷を焼かれ、帰る場所を失いました……」

 すっと目を伏せて、一粒の涙をこぼす。

「わたくしを助けてくれたのは、旅芸人たち。彼らは仕事に誇りを持って生きていました。――そんな彼らを侮辱(ぶじょく)するというのなら、わたくし、おとなしく聞いてはいられませんわよ?」

 淡々とした口調でイレインに告げるアナベルに、彼女は苛立ったように「ハッ!」と言葉を放つ。

「聞きまして? エルヴィス陛下。彼女は踊り子。そんな下賤(げせん)なものが陛下の隣に座るのは、国民に対して失礼だと思わないのですか!」
「――まったく思わないな。むしろ、国民を(ないがし)ろにする国母のほうが、国民に対して失礼だろう」
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