【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「こんなもの! 私だという証拠になりませんわっ!」

 捏造しようと思えばいつでも捏造できるものだと、イレインは叫ぶ。

「まぁ、そうだろうな。だが、これは?」

 また別のオーブを取り出し、映像を見せる。

 ――それは、イレインが血を浴びている姿だった。

「ヒッ!」

 会場内の誰かが悲鳴を上げる。血を溜めたバスタブに入り、恍惚(こうこつ)の表情を浮かべている王妃の姿を見て、みな、恐ろしいものを見たかのように硬直する。

「なっ――……!」

 イレインがエルヴィスに近付こうとしたのを、アナベルが止めた。

「よくもこんなに恐ろしいことが、できますね……」

 呆れたような……いや、どちらかと言えば憐れむような声で口にするアナベルに、イレインは唇をかみしめる。

「――若い女性の血を浴びて、若返りの効果はありましたか?」

 アナベルはイレインに近付いて、ひそりとつぶやく。

 バシッと乾いた音を立て、イレインはアナベルを扇子で殴った。

「アナベル!」

 アナベルの頬が真っ赤に染め上げられた。――彼女はすっと目元を細めて、口角を上げる。

「これで正当防衛確定だねぇ?」

 右手の甲で頬を(こす)り、楽しそうに声を弾ませる。アナベルはドレスの裾をまくり上げてナイフを取り出し、その切っ先をイレインに向けた。
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