【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 誰も、動かなかった。

 そのことがイレインには信じられなかった。

 どうして誰も助けないの、と周りの人たちに視線を巡らせる。

 だが、イレインを助けようとする人は、一人もいなかった。

「……無駄さ、王妃サマ。……あんたの天下は、今日で終わりだ」

 しんと静まり返った会場に、アナベルの声が響いた――……

「……あなたこそ、なにを言っているのかしら? 私の天下が終わるわけ、ないでしょう?」

 イレインは不敵に笑う。

「ああ、あなたはわからないでしょうけれど。王妃という立場は、強固なものですのよ」
「……飾りの王妃が?」

 エルヴィスが立ち上がり、アナベルの隣に立った。

「飾りだなんて! 私、自分の責務はきちんと果たしておりましてよ?」

 ピクリとエルヴィスの眉が動く。

「ほう?」
「あなたに代わり、政をしたことだってあります」
「私を追い出して、な」
「……だってあなたはまだ幼かったから」
「――王族を築き上げてきたものを、台無しにしたのはお前だろう」

 エルヴィスは冷たい口調で淡々と話していた。

「まぁっ、私の努力をなんだと思っておりますの!?」
「……白々(しらじら)しい。王妃イレイン。――いや、魔女イレインよ、本日限りで私との関わりを一切()たせてもらう!」
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