【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 アナベルが挑発するような軽い口調で笑えば、イレインは「うるさい!」と叫んだ。

 会場内は戸惑っている人が多かったが、段々とイレインの不利を受けているようだった。

「そんな口調で! 卑しい踊り子が私に声をかけるな!」
「まだ、それを言うの? ほんっとうに残念な人ねぇ……」

 ナイフの切っ先を向けたまま、アナベルは呆れたように息を吐いて、頬に手を添える。

「王妃イレイン、あなたが(おと)っていると思う人に、自分の存在を(おびや)かされる気分はどう?」

 アナベルの問いに、イレインは答えない。ただ、彼女のことを睨むだけだった。

「ふふ、残念だわ。出会い方が違えば、もっとあなたを苦しめられたのかもしれないのに。本当に残念だわ」

 アナベルはタンっと床を蹴って、勢いよくイレインに突進する。

「きゃぁああッ!」

 ドン、と体当たりをすると、イレインが倒れた。

 しかし、アナベルの持っているナイフには血がついていなかった。

「本当に殺すわけないじゃない。あなたの罪をすべて裁くまで、生かしておくに決まっているでしょう?」

 冷たく鋭い視線で、アナベルはイレインを見下ろした。

「あ、あ、あ……」

 殺されるかもしれないという恐怖からか、イレインは意味のない言葉を繰り返し、(おび)えるように震えている。

「……ねえ、自分が死ぬかもしれないと思って、どう思った?」

 にこにこと(たず)ねるアナベルに、イレインは恐怖のまなざしを向けた。
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