【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
(――あなたが殺した人たちも、こんな()をしていたのでしょうね)

 ガタガタと震えるイレインに、アナベルは彼女の犠牲になった人たちのことを考える。

「それにしても、こんな偽物のナイフに気付かないなんて……」

 アナベルが持っていたナイフは偽物だった。鋭利な刃物ではなく、ナイフの部分を押せば引っ込む、ただのジョークグッズだ。

 冷静に見ていればすぐに危険性がないとわかる品物だろうが、激昂していたイレインは気付かなったようだ。

「とりあえず、王妃サマの罪は法できっちりと裁いてもらいましょう。それでいいでしょ? エルヴィス陛下」
「……ああ、ベル。ご苦労だった」

 エルヴィスはアナベルに近付いて、手を差し出す。その手を取って立ち上がる。彼はそっとアナベルの腰に手を添えてぎゅっと自分の胸に閉じ込める。

 二人でイレインを見下(みお)ろすと、イレインは信じられないとばかりに目を(みは)った。

「どうして、その女の隣に立つのです……! あなたの妻は、私でしょう……!?」

 ようやく動けるようになったのか、イレインがゆっくりと起き上がった。だが、すぐにロクサーヌたちによってその身を拘束される。

「娼館の者が私に触れるなっ! (けが)れるだろう!」
「やだぁ、イレインさまったら、ご冗談がうまいんですからぁ」
「そうそう、――だってご自分が一番、血で穢れているじゃないですかぁ」

 くすくすと笑うイネスとカミーユ。その言葉に、ロクサーヌがただ嘲るように口角を上げた。

 この国で、イレインよりも血に濡れた女性はいないだろう。
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