【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「――ダヴィドと昔から話し合っていたんだ。私は国を治める力がないと、実感していたから。だが、ダヴィドなら……まあ、問題なくやっていけるだろう」
「……エルヴィス陛下は、本当にそれでよろしいのですか?」
「もちろん。どこかに縛られているよりは、自由に歩けるほうが向いている。……ああ、だが……」

 そっとアナベルの髪に触れて、そっと毛先を持ち上げると唇を落とす。

「ベルになら、束縛されてみたいものだ」

 彼の瞳に奥にある、確かな独占欲の炎。それを感じて、アナベルは顔を真っ赤にさせた。

「お二人さん、いちゃつくのはダンスの時間にしてくれないかな?」
「……なんだ、見ていたのか」
「見えるっての。それじゃあ、エルヴィス……」
「ああ。行こう、ベル」

 二人は微笑み合い、会場の中央まで移動する。

 すると、エルヴィスがパチンと指を鳴らした。

 会場内の花がすべて凍り、一気に会場の中が寒くなる。

「さあ、熱いダンスで氷花を溶かそうではないか!」

 音楽が始まった。甘く、熱く、ロマンチックな音楽が流れ、アナベルとエルヴィスはダンスを始めた。

 凍った花々にはリボンがつけられていて、リボンも凍っている。

 舞踏会のコンセプトを理解した貴族たちは、それぞれのパートナーとダンスを始めた。

 会場内のダンスの熱気で、エルヴィスが凍らせた花が段々と溶け、リボンから雫を垂らす。

 ――その日の光景を、アナベルは胸に刻んだ。
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