【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「私がなにをしたというのです! エルヴィスをこんなにも支えたというのに……!」
「本当にエルヴィス陛下を支えたのなら、大切にされていたでしょうに」

 コツコツと足音を響かせて、呆れたように言葉を発する女性――アナベルが姿を現した。エルヴィスとともに。

「……どうして、ここに」
「罪人の顔を見たくて、エルヴィス陛下にお願いしましたの」

 すっとエルヴィスの腕に自分の腕を絡ませるアナベルに、イレインは憎悪の表情を隠さず立ち上がった。

「私はただ、美しくありたかっただけ……! それを罪だというの!?」
「その美しさのために、どれだけの人が犠牲になったのでしょうか」

 アナベルは淡々と言葉をこぼす。

「わたくしが住んでいた村を焼き払ったり、気に入らないことがあればすぐに人を殺したりするなんて、恐ろしいですわ……」

 ぎゅっとエルヴィスの腕にしがみついて、アナベルはイレインを睨みつける。

 ――焼き払われた家を、村を、忘れたことなどない。

「イレインは斬首刑になった。明後日(みょうごにち)に執行される」
「そんなっ、あまりにも早くありませんか!?」
「貴族たちがお前の悪行を知り、『こんな王妃がいては安心してくらせない』とな。気に入らない貴族も手をかけていたらしいな。あのあと、証言が山のように出てきたぞ」
「……私だけが悪いわけではないでしょう。私のことを放っておいたのは、エルヴィス、あなたでしょう!」
「よく言う。私を遠ざけていたのはイレイン、お前だろうに」
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