【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「さて、娘との別れは済んだか?」
「はい、陛下。お心遣いをいただき、感謝しております。先程、娘にも伝えましたが、イレインとは縁を切りました」
「そうか、それはつらい決断だったろう。……貴殿たちは娘との縁を切り、どうするつもりだ? このような娘を王妃に推した責任は?」
「……陛下が許してくださるのであれば、我々は政治から撤退し、田舎で余生を過ごそうかと……」
「それはダヴィドと決めてくれ。私は王ではなくなるのだから」

 さらりと告げられた言葉に、イレインの目が大きく見開く。信じられないことを耳にした、とばかりに。

「どういうことですのっ?」
「どうもこうもないさ。私は王位を降りる。それだけのことだ」

 エルヴィスがきっぱりと言い切ると、イレインが「なぜですか!?」と声を荒げた。

「なぜ? ……私はお前のことを止められなかった。それが理由だ」

 イレインがポロポロと涙を流す。自分が守ってきた王妃という地位を、エルヴィスの宣言によって失うことになったから。

「……身勝手な人ね」

 ぽつり、とアナベルが言葉をつぶやく。

「あなたに苦しめられた人がどれだけいると思うの? わたくしもその一人。ミシェルさんもマルトも……あなたに関わった人も、関わらなかった人も。自分に都合の良い人物しか残さなかった、あなたの失態ね。……せめて、本気であなたを(いさ)めることができる人がいれば良かったのだけど」

 アナベルはちらりとイレインの両親に視線を向ける。彼らはバツが悪そうに、彼女から視線をそらした。

「我らはもう、なににも手出しをしません。それでよろしいでしょう?」
「それを決めるのもダヴィドだな」
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