【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 エルヴィスは両肩を上げて重々しく息を吐く。

 実際にはダヴィドと話し合って処遇を決める予定だが、娘――イレインと縁を切れば自分たちは助かる、という考え方が彼には気に入らなかった。

「……」

 忌々しそうにエルヴィスを睨みつけるイレインの両親に、彼はただ笑う。それを見て逃げるように去っていく両親を見たイレインは、手を伸ばして両親に追い縋った。だが、彼らは一度も彼女を振り返ることなく、地下牢をあとにする。

「……なん、なのよ……!」

 イレインは力を失ったかのようにその場に座り込み、カタカタと震えている。そんな彼女の姿を見たエルヴィスとアナベルは、――なにも、感じなかった。

「お前と話すのはこれで最期だろう。――さようなら、イレイン」
「……」

 アナベルはちらりとエルヴィスを見上げた。彼はただ、冷たい視線でイレインを見ていた。その瞳に一切感情は見えず、アナベルは彼の腕をぐいっと引っ張る。

「ベル?」
「行きましょう、エルヴィス陛下。わたくしたちがここにいる理由なんて、もうないでしょう?」
「……そうだな」

 二人はちらりとイレインに視線をやってから、地下牢から離れた。

 アナベルが暮らしている宮殿に戻り、エルヴィスとともに少しのあいだ、静かな時間を過ごそうと部屋に向かう。
< 246 / 255 >

この作品をシェア

pagetop