【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……エルヴィス」

 エルヴィスとアナベルはソファに座り、アナベルがぽんぽんと自分の膝を叩きながら彼の名を呼ぶ。

「顔色が悪いですわ。少し、休んでくださいませ」
「……ああ、そうだな。そうさせてもらおう……」

 アナベルの言葉に素直に従い、エルヴィスは彼女の膝を枕にして眠りについた。

 彼の眠りを邪魔しないように、アナベルはそっと息を吐く。

(――終わった……のよね……?)

 イレインのことを思い浮かべたアナベルは、緩やかに首を振る。まさか自分の両親に見捨てられるとは思わなかっただろう。

(これから、どうしようかしら……)

 このまま、ここで暮らすわけにはいかないだろう。

 ダヴィドが王になるということは、新たな寵姫(ちょうき)が呼ばれることになるだろうから。

(でも、せめて今だけは――……)

 エルヴィスを見つめて、起こさないようにそっと頬に触れる。すやすやと眠っているエルヴィスを見て、アナベルは小さく口角を上げた。

(あなたの隣にいたいのよ、エルヴィス……)

 たとえ離れ離れになるときがきたとしても。

 アナベルはそっと心の中でつぶやいて、自身の目を閉じた。

 これからのことを想像して、自分がどうすれば良いのかを考え始めた。

 もとの計画からはだいぶ離れてしまったが、イレインがやってきたことを思えば自業自得だろう。

廃妃(はいひ)にするつもりだったのに、斬首刑になったものね……)

 遅しいほどに、自分の美貌ばかりを気にかけていたイレイン。

 その犠牲になった人たちを思い、アナベルは――どうか安らかに、と祈ることしかできなかった――……
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