【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ――民衆たちは、小さな悲鳴を上げる。

 噂に聞いていたイレインの美貌とは違い、この世のすべてを恨むようなその表情は、悪魔を連想させた。

「これより、刑を執行する」

 死刑執行人が、静かに声を出す。

 イレインは黒服を着た人たちに身体を押さえられ、穴の中に頭を入れられた。彼女は自分を化け物のように見る民衆に、表情を歪める。

「なにか言い残すことはあるか?」

 イレインはなにも言わなかった。なにも言わず、ただ目を伏せた。

 刑は、静かに執行された。彼女の首は刎ねられて、ごろりとその首が落ちた。――アナベルは、しっかりとその姿を目に焼き付けた。

 ◆◆◆

 イレインが処刑され、残された彼女に仕えていた者たちには選択肢が与えられた。このまま王宮で働くか、ここから去るか。

 全員、去ることを選んだ。

 イレインが住んでいた宮殿には、捕らえられていた少女たちがいた。全員孤児院にいた少女だったらしく、彼女の生贄として暮らしていたらしい。

「……これで終わった、のよね……」

 ぽつり、とアナベルが言葉をこぼした。

「……ああ。これから少し忙しくなるが……」
「ねえ、エルヴィス。あたしはどうなるのかしら?」

 軽く首をかしげて問うと、エルヴィスはぽんと彼女の頭に手を置いて撫でる。

「心配しなくてもいい」

 エルヴィスが優しく言葉を発する。アナベルはエルヴィスを見上げて、小さく眉を下げた。

「……ねえ、エルヴィス。あたしね――……」

 アナベルはゆっくりと言葉を紡いでいく。エルヴィスはその言葉をしっかりと受け止め、彼女のことを強く抱きしめる。

 そして、名残惜しそうに、エルヴィスはアナベルから離れた。
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