【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「ひどーい、セット、大変なのよぉ?」
「はいはい。ま、その発散方法は追々教えてやれ」
「……教えられたら、ね……」

 ぐっすりと眠るアナベルを見て、ミシェルは小声でつぶやく。ゆっくりと息を吐いて、自身のお腹に手を乗せる。

「……もしも生きていたら、この子くらいかなぁ……」

 お腹をさすって、目元を細めた。アナベルを放っておけなかったのは、自身の子の姿を重ねたから。

「……ねぇ、旅芸人のもう一つの仕事、アナベルちゃんにさせないでね。あたしがいなくなっても。お願いよ」
「……努力はするさ。幸い、アナベルの魔力はそこそこ高そうだから、幻想の魔法でも教え込んで、身を守ってもらうしかないな」
「……そうね、それしかないよね……」

 旅芸人のもう一つの仕事――……

 芸を見せたあとで、客に声をかけられたら拒むことは許されない。

 それは男女ともに、だ。

 一夜の……とびっきり最高な夢を見せてあげる。それが彼らのもう一つの仕事だ。

「あと、この子結構、剣術向いているかも。本格的に教えてあげても良いかもよ?」
「剣術を教えられるのなんて、うちの一座じゃ一部だけだろ……。ま、考えてはおく」
「うふふ、さすがクレマン。この子のこと、よろしくね」

 ミシェルはふわりと花がほころぶようにはにかみ、クレマンの頬にキスをすると、アナベルの隣に入り込んで目を閉じた。

 ――そしてそれから十五年後、アナベルは一座のトップで輝くことになる。

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