【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ◆◆◆

 ――アナベルが一座に加入してから、十五年の月日が経った。

 そのあいだに、様々な人が入り、抜けて、を繰り返しながら旅を続けている。

 アナベルは昔、自分を花嫁にしようとしていた貴族、ジョエルが何者かによって殺されていることや、北部の村が焼かれていた事件について耳にすることがあった。

 そのどれもが信憑性(しんぴょうせい)の薄いものだったが、彼女はたくさんの噂を集めた。そのうちのどれかが、当たりであることを願って。

「アナベル、準備は良いか?」
「大丈夫よぉ、座長。あたしの準備はバッチリ!」

 ウェーブがかかったプラチナブロンドは(つや)があり、ポニーテールで緩やかにまとめられていた。

 アメシストの瞳は、誰をも魅了しそうな輝きを発していた。ピンク色のグロスで色づけられた唇はぷるんとしていて、男性たちの視線を釘付けにするだろう。

 すらりと伸びた手足、形の良い胸、丸くてきゅっと上がったお尻。

 ――そのすべてが、アナベルの武器だ。

 アナベルは剣きゅっと(にぎ)る。

(見ていてね、ミシェルさん)

 天を仰ぐように空へと顔を向けてから、前を見据えて歩き出す。

 今日は、この街で最後のパフォーマンスだ。

 ステージにアナベルが立つと、途端にヒューヒューと口笛が聞こえた。

 音楽が鳴り始め、アナベルはそっと剣を抜き、鞘を大きく空へと放つ。

 落ちてくるあいだにも、ステップを踏み、剣舞を披露(ひろう)する。――あの日、ミシェルが見せてくれたように。

 リズムに乗ってステップを踏み、剣を振るう。

 上空に放った鞘が剣に吸い込まれるようにぴたりと収まり、もう一度剣を抜き、今度は鞘も握ったままステップを踏んだ。

 音楽は過激さを増していく。

 それに合わせるようにアナベルの動きも大胆な動きになり、ステージを見ている人たちの欲望を煽るようだった。

 最後まで踊りきり、大きく両手を広げてからすっと頭を下げる。

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