【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「アナベルちゃん、最高ーっ!」
「すっげぇセクシーだったよー!」

 そんな声が投げかけられて、アナベルは自分の唇に人差し指と中指を当て、チュッっと音を立ててキスを飛ばし、ウインクをした。

 アナベルの剣舞はミシェルのものだ。彼女が一生懸命に教えてくれたもの。

 そして、アナベルがステージで演じる人物像も、ミシェルそのものだ。

 ミシェルは、アナベルが十五歳の頃に亡くなってしまった。もとからあまり身体が丈夫ではなかったそうで、このまま旅を続けていたらいつ亡くなってもおかしくない、と街の医者に宣言されていた。

 それでもミシェルは、旅を続けていた。一日でも長く、アナベルの(そば)にいたかったから。

 だが、無理がたたったのか途中で倒れてしまい、近くの町で看病をしたがそのまま亡くなった。

 そのときに、アナベルはミシェルの手を握って、何度もお礼と謝罪を伝えていた。

『謝らなくていいのよぉ、アナベルちゃん……。これからは、あなたが一座のスターになってね。……でも、自分の身体は売っちゃダメよ。大切にしなさいね……。……そうね、できれば初めては……素敵な人が、良いわよねぇ……』

 力なく笑うミシェルと、そう約束したのだ。

 だから、アナベルは客に誘われても幻想の魔法を使い、その人の都合の良い夢を見せることで、自身を守り続けた。

 その後、座長からミシェルの過去を断片的に伝えられた。彼女はずっと、アナベルを守ってくれていたのだと知り、彼女の剣舞を広めようとアナベルは決心し、現在に至る。

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