【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 それに美形だったし、とアナベルは続けた。

「なるほど、この顔に助けられたわけか」
「いやぁ、本当に美形だねぇ。あたし、こんなに綺麗な顔の男性を見るのは久しぶりだよ」

 十五年前に一度だけ会ったエルヴィスの顔を思い出し、マジマジと彼の顔を見た。――似ている、気がする。

「前にも似たような顔を見たことが?」
「……さて、ね」

 アナベルがにこりと微笑むと、彼はただ小さく口角を上げ、すっと(ふところ)からなにかを取り出すと彼女に渡した。

「……これは?」
「預かっていてくれ。美しいきみにこそ、似合うものだろう」

 渡されたものに視線を落とす。それは綺麗なブローチのようだ。

 それにしても、預けるとはどういう意味なのか……。彼は、テントから出ようとしたので慌てて声をかける。

「……あたし、旅芸人の一座の一員なんだけど、次の街は王都、ティオールに向かうんだ。そこで会えるかい?」
「……なんだ、目的地は同じだったのか。ならば、私も同行願えるか座長に聞いてみてくれないか」
「……はぁ……」

 アナベルは目を(またた)かせて、それから「しばらくそこで待っていて」と伝えてからテントを抜けて、座長のもとに向かう。

 座長に会い、事情を話すとぎょっとしたように目を大きく見開かれた。

(ま、当然の反応よね)
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