【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……ちょ、ちょっと、それは……」

 クレマンが咄嗟(とっさ)に断ろうとしたが、アナベルが手を伸ばして制した。

「……それ、あたしにメリットがあるの?」
「危険は(ともな)うだろうが……、充分な報酬を約束しよう」
「……それよりも、確かめてほしいことがあるんだ」

 アナベルはぐっと拳を握り、真剣な瞳をエルヴィスに向ける。

「十五年前、この国の北部の村が焼かれた。……なぜ、あの村が焼かれたのか、理由を知りたい」
「……十五年前、北部……」

 確認するようぽつぽつと言葉を口にしてクレマンが、ハッとしたようにアナベルを凝視した。彼女の肩に触れて、その冷たさに息を呑み、すぐに自分の上着をかけてやるとアナベルが「ありがとう」と目を伏せた。

「きみは、その村の生き残りか?」
「……そうさ。……悪いね、座長。あたし、本当は記憶を失ってなんかいなかったんだ。……いや、失いたいと願っていたのかもしれない」

 十五年前に見た、あの光景を思い出したくなくて。

 それでも、脳裏に焼き付いたあの光景は消えてくれることはなかった。

 そして誓った思いを、アナベルはまだ秘めている。

「……それはおそらく、イレインの仕業だろう。あの村が焼けてから数ヶ月後に、イレイン側の貴族であったジョエルが謎の死を()げている。だが、あいつは隠すのがうまく、なかなか尻尾を出さない」
「……王妃サマが、なんであんな小さな村を襲わせたの……? それに、その『ジョエル』って貴族、あたしを買った貴族だよ」

 えっ? と二人の視線がアナベルに集中する。

 彼女は覚えている範囲のことを口にすると、クレマンもエルヴィスも口を閉ざし、なにかを考え込んでいた。

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