【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子 アナベル 10話

 アナベルはそれを聞いて、ゾッとして背筋が寒くなる。

 悪い噂が流れていてもおかしくない人物なのだ、と。

「ジョエルがあの村にきた理由は……?」
「イレインにそそのかされたのだろう。ジョエル亡き今、わからないがな」
「……あたしが、王妃サマよりも若かったから……?」
「それに、イレインよりも美しい。それが理由だったのだろう」
「理解できないね! どんなに若くて美しくても、歳を取ればしわくちゃのおばあちゃんになるもんじゃないのかいっ?」

 抑えられていた感情が爆発するかのように、アナベルが声を荒げる。

 そんな理由で村が焼かれたとなれば、ふつふつと腸が煮えくり返る思いだ。

 クレマンが、そんな彼女の怒りを抑えるように、背中をぽんぽんと叩く。

「……なんで、みんな死ななきゃいけなかったの……っ!」

 ボロボロと、彼女の瞳から大粒の涙が流れた。

 顔を覆って泣く彼女を見て、エルヴィスの手が伸びて、そっと彼女を包み込みように抱きしめる。

 子どものように泣きじゃくるアナベルは、やがて泣きつかれて気を失うように眠りについた。

 心身ともに疲れていたのだろう。

 エルヴィスに身体を預けるように眠る彼女を抱き上げて、置かれているベッドへと運んだ。

「……なんというか、すごい巡り合わせですね」
「……そうだな」

 涙の(あと)をなぞるように、エルヴィスの指が彼女の頬から目元へ動く。
 そして、「本当に……美しく成長したものだ」とつぶやいた。
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