【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「精を絞りつくされるわよって、コト。うちの女性陣は初心(うぶ)な反応の男性……大好きだから、ね」

 ぴしりと石化したかのように動かなくなった護衛の男性に、アナベルはくすくすと笑った。それを見ていたエルヴィスが彼女に問いかける。

「きみは違うのか?」
「さぁ、どっちだと思う?」

 ちらりと流し目でエルヴィスに視線を送ると、彼は肩をすくめた。

 みんなで力を合わせてテントを片付け、ベッドなども収納魔法でしまい、旅立つ準備を終えた旅芸人一行は、王都ティオールに向けて出発する。

 護衛の人たちは案の定、女性陣に囲まれていたが、囲んでいたうちの一人がアナベルに対して「そっちの美形はアナベルに話があるみたいだから、しっかり相手しなさいね」とウインクをした。

 アナベルは眉を下げて微笑み、うなずきを返してからエルヴィスの隣を歩き、他愛のない会話を弾ませる。

「……ところで、本当に一緒に歩いて良いもの? あとで罰せられない?」
「国王の隣を歩いたものとして?」

 こくりとうなずくのを見て、「大丈夫だ」とエルヴィスはふわりと微笑む。

 その笑顔があまりにも綺麗に見えて、アナベルは自分の顔に熱が集まっていくのを感じた。

(――他の男性を見たときと、全然違う……。ミシェルさん、これがあたしの『素敵』なのかなぁ……?)

 自分が思っていた以上に面食いだということに気付いて、アナベルはゆっくりと息を吐く。

 考えてみれば、幼い頃に整った顔をしたエルヴィスを見たから、これまで男性に心が揺れ動かなかったのかもしれない、と。
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