【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「って、ちょっと待って。あたしまだ考えるって言ったよね?」
「ああ。だから寵姫になることを選んだら、こういうことになるということを覚えていてほしい。……私はきみを、結婚させてから寵姫にするつもりはないんだ」

 その言葉に、アナベルは目を丸くした。どうリアクションするのが正解なのかわからず、ただただエルヴィスを見つめている。

「そんなことができるの?」
「できる、できないではなく、やるんだ」
「……えええ……」

 どうやらエルヴィスは、自分がこうと決めたことは頑として譲らないようだ。意志が強いのだろう。

 しかし、その意志の強さにアナベルは翻弄されていた。

「私が自分から迎える寵姫(ちょうき)は、きみが初めてだ」
「……そうなの?」
「ああ。だから、良い返事を期待している」
「……そう」

 アナベルはそれだけ口にすると、なにかを紛らわせるかのように早足になり、仲の良い女性のもとへ向かうと、彼女の腕に抱きつく。

「どうしたのさ、アナベル」
「……よくわからないの。この気持ちがなんなのか」
「うん? なんだい、恋でもした?」
「……恋……なのかなぁ……?」

 旅芸人の一座の中で最年少のアナベルは、とても可愛がられていた。

 彼女が相談したいことがあるとこぼせば、みんな真剣に話を聞いてくれたし、考えてくれた。

 だから、アナベルはいつもと同じように……自分の感情を整理するために軽く事情をかいつまんで話す。

 予想通り、真剣に聞いてくれたことに感謝しつつ、彼女の反応を待った。
< 48 / 255 >

この作品をシェア

pagetop