【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子 アナベル 12話

「ん~……それはまた、なんとも言えないわねぇ……」

 頬に手を添えて、首をこてんとかしげる女性――アナベルと仲の良い、少し年上のアドリーヌがつぶやく。

「え?」
「だぁって、それはアナベルが決めることだもの。恋なのか、そうじゃないのか……。でも、そうね。アナベルが初めて『素敵』って思える人に出逢えたことには感謝しなきゃね?」

 くすり、と妖艶(ようえん)に微笑むアドリーヌに、アナベルは唇を尖らせてわかりやすく()ねた。

 そんな様子を見て、アドリーヌが「それじゃあ、一言だけ助言」と人差し指を口元に添えてパチンと片目を閉じる。

 アナベルがぱっと表情を明るくすると、アドリーヌは彼女の耳元でこうささやいた。

「自分の直感を信じること」

 アドリーヌの言葉に、アナベルは目をパチパチと(またた)かせて、そっと自分の胸に手を当てる。

(……自分の、直感……?)

 不思議そうな表情を浮かべるアナベルを見て、ぽんぽんと優しく彼女の背中を叩き、ぎゅっと抱きしめた。

「アナベルが考えて、信じたことを、あたしたちは応援するわ」
「……ありがとう、アドリーヌさん」

 自分には、旅芸人一座という味方がいる。

 そのことが、アナベルにはとても嬉しかった。

 血の繋がった『家族』はもういないけれど、こうして新たな『家族』ができ、その家族が自分の背中を押してくれる。

 アナベルはアドリーヌの背に手を回した。

「あたしたちのことなら、心配しなくても平気だよ。むしろ――……」

 時期がきたってことだからねぇ。

 ぽつりとささやかれた言葉の意味を、アナベルは知らなかった。
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