【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ◆◆◆

「どうです、陛下。うちの一座は」
「良いな。クレマンを中心に、よくまとまっている。……その中に、ミシェルがいないことが残念だが……」
「ミシェルも、陛下のことを気にしていましたよ」

 誰にも聞かれない程度の小声で、ぽつぽつと言葉を()わすクレマンとエルヴィス。

 ミシェルの素性を知るものも、クレマンの素性を知るものも最初はいなかった。ただ、逃げるために必死で生きてきた。

 二人だけで旅を続けるのは難しく、数多の困難をクレマンとミシェルは乗り越えてきた。そのうちに二人はとある人たちに声をかけられ――おそらく、彼らにとっての転機はそこだったろう。

「オレもミシェルも幸運だったんだ。まさか、あそこで同期に会えるとは思わなかった」
「騎士団のやり方に納得がいかずにやめていったものたち、だったか。まぁ、現状の騎士団はどこぞの傭兵団よりも腐っているからな」
「まだ腐ってんのか……」
「金を詰めば仕事をきっちりとこなすだけ、傭兵団のほうがマシというものだ」

 そう続けたエルヴィスの表情は無に等しく、現状の騎士団のことを(うと)ましく思っていることが(うかが)えた。クレマンが眉を下げて頬を人差し指でかく。

「しかし、なぜ旅芸人に?」
「……少しでも、国民に笑顔を浮かべてほしかったから? それに、うちの女性たちはいろいろ上手いから、情報を集めるのにも旅芸人のほうが都合良かったってところかね」
「なるほどな……」

 感心するようにつぶやくエルヴィス。

 クレマンとの付き合いはそこそこ長い部類だが、なぜ彼が旅芸人を選んだかは聞いたことがなかった。

 その理由を聞いて、エルヴィスは彼の肩にぽんと手を置く。

「国民ことを考えてくれて、ありがとう」
「いーえ。正直に言えば、ミシェルの美しさを見せつけたかったってところもあるので」

 さらりと付け足された言葉に、エルヴィスは強めに彼の肩を叩いた。

 いってぇ! と叩かれた肩を(さす)るクレマンに、エルヴィスは呆れたような視線を送る。

「――それで? アナベルをどうするつもりだ?」
「……そうだな……」
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