【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ◆◆◆

 しばらく歩き続けて、今日はここで休もう、とクレマンが旅芸人たちに声をかける。それぞれ手慣れたようにテントを設営したり、野宿の準備を始めたりと仕事を見つけて自分ができることをやっていた。

 その中には、エルヴィスの姿もある。

 アナベルたちも食事の準備を始めた。

 野菜たっぷりのスープと、パン。他にもお肉を焼いたり果物を用意したりと、エルヴィスたちがいるからか野宿でも豪華な食事が並ぶ。

 エルヴィスの周りには護衛の騎士たちがいたが、その人たちは踊り子たちに囲まれて顔を赤らめていた。

初心(うぶ)な人たちねぇ……)

 どこか感心したようにその様子を眺めながら、アナベルはスープを飲む。

 まだ野宿ができるくらいの気候だから良いが、もう少し先の季節になれば野宿をするのも厳しくなるだろう。

 そして、その時期になれば暑いスープがあっという間に冷めてしまう。

 だが、アナベルはそんな季節のことも好きだった。

 村で過ごしていたときは、その時期をどうやって乗り越えようかと村人たちが知恵を出し合って、互いに手を取り乗り越えていた。

 村人たちが少なかったから、それでもなんとかなったことを思い出し、アナベルは懐かしむように目元を細める。

「そういえば、王都に行ったことはなかったね……」

 各地を回っていたが、この十五年、王都には寄ったことがない。

 王都に近いところまでは行ったことがあるが、王都に寄るのはまた今度、と言っていた。まだ、ミシェルが生きていた頃の話だ。
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