【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
(あのときはなにも考えなかったけれど……、理由があったのかもしれない)

 王都の方角を見つめるミシェルの表情が、どこか暗かったことがアナベルの記憶に刻まれている。

 王都でなにがあったのだろうかと考え、アナベルは小さく息を吐いた。

「……どうした、食べないのか?」
「へ、陛下っ?」

 アナベルはビクッと肩を跳ねさせた。いつの間に近くまで来ていたのか、と辺りを見渡すアナベルに、エルヴィスはふっと表情を綻ばせて彼女の隣に座る。

 そして持ってきていたスープに口を付けた。

「うん、美味しいな」
「……陛下は、もっと良いものを食べているのでは?」
「こういう場所で、このように大勢で食べるほうが、よりおいしく感じるだろう?」

 アナベルは目をぱちくりと(またた)かせる。

 わいわい、がやがやと騒がしくもあるこの場所で食べるほうがおいしいと言ったエルヴィスに、今までどのような場所で食べていたのだろうかと首をかしげる彼女を見て、彼は淡々とした口調で自分がどのような環境で育ったのかを話し始めた。

「食事は一人で、周りにずらりと執事やメイドが並び、まるで監視されているかのようだった。政務を行うにも大人の許可が必要で、まだ成人を迎えていなかった私は無力を感じていたものだ」
「……陛下……」
「私に宿っている魔力が目覚め、冬の寒さが厳しいときは魔物を討伐することに集中するようになった」

 アナベルは昔、母が話してくれたことを思い出す。

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