【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子 アナベル 13話

 それは、遠い昔の物語。

 レアルテキ王国の始まりの物語。

 幼い頃、寝る前に母が良く話してくれた。

 アナベルが追想(ついそう)にふけっていると、エルヴィスが「どうした?」と問いかける。

「母が話してくれた物語を思い出したんです。この国の始まりの物語」
「ああ、あれか……」

 エルヴィスにも覚えがあった。

 まだ幼い頃、眠れないエルヴィスに母が柔らかい口調で紡いでくれた物語だ。おそらく、この国のほとんどの人が知っている始まりの物語。

 真実かどうかを知るものはいない。

「……陛下は、本当に氷の魔法が使えるのですか?」
「使える。正直に言えば、城にいなくて良いという点で、この魔法に助けられている」
「……ふぅん……?」

 もともとレアルテキ王国は寒さが厳しい土地で、なかなか作物に恵まれず様々なことを試していた。

 そのうちに、どんどんと人間も野生動物も魔物も倒れていき、憐憫(れんびん)の情を抱いた神によってこの土地に祝福がかけられた。

 その祝福で寒さが少しだけ和らぎ、作物が育つようになった。さらに神は一部の人間に魔物を倒せる力を授けたという。

 それが――王族の使う『氷の魔法』だ。

 だから、レアルテキ王国の王族は『氷の血族』と呼ばれている。

 その魔法はとても強く、魔物たちをなぎ倒すことができた。そして、段々とレアルテキ王国の基盤が築かれていった。
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