【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ふるふると頭を左右に振って、アナベルは髪を洗ったり身体を洗ったり、とにかくなにも考えなくても良いように身体を動かす。

 髪も身体も洗ってスッキリしたところで、そろそろ上がろうとタオルに手を伸ばすと、足音が聞こえた。

 こんな時間に? とアナベルは辺りを警戒するように周囲を眺める。

 がさ、と音が聞こえてそちらに顔を向けると、そこにいたのはエルヴィスだった。

 川のほうから音が聞こえたから、魔物の可能性を考えて剣を携え確認のためにきた彼は、アナベルが川に入っていることに気付き、その姿に魅入ってしまった。

 アナベルはエルヴィスの姿を見て、今の自分の格好を思い出して顔を真っ赤に染めて隠すように背を向ける。

 足音が近付き、ふわりと肩にバスタオルがかけられた。

 ちらりとエルヴィスを振り返るアナベル。彼は彼女の裸を見ないように、夜空を見上げている。

「あ、ありがとうございます……」
「いや、本当にすまない。覗くつもりはなかったんだ」

 弱々しくも聞こえるエルヴィスの声に、アナベルはそっとバスタオルを巻いて身体を隠す。

 二人とも黙ってしまい、沈黙が続いた。

 そして、意を決したようにアナベルが掠れた声で問いかける。

「……見た、よね……?」

 その問いに、エルヴィスが「……ああ」と肯定した。

 アナベルは「だよね……」と視線を彷徨(さまよ)わせる。

 女性以外に裸を見られたことがないから、余計に恥ずかしくなった。
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