【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子 アナベル 14話

 女性同士なら今のように川や湖で髪や身体を洗うので、裸を見ることも珍しくない。

 だが、異性と鳴れば違う。

 客とベッドをともにすることもあったが、そのときは幻想の魔法を使って、その人に都合の良い夢を見せていたから、下着やバスタオルを身につけていたままだった。

「――その、とても綺麗で、驚いた」
「……? 陛下は、女性の裸なんて見慣れているのでは?」

 アナベルの問いに、エルヴィスは思い出すのもいやだとばかりに髪をかき上げる。

 そっと彼から一歩離れて振り返り、じっとエルヴィスを見つめた。

「――確かに、見慣れてはいる、が……。あまり良い思い出はないんだ」
「どういう意味……?」
「気もない女性が裸で迫ってくるのは、ある意味恐怖を覚えるぞ……」

 淡々とした口調で紡がれた言葉に、アナベルはどんな状況なのかを想像してみた。もしも自分が彼の立場だったら……? と。

 そしてゾッとしたように顔を青ざめた。

 想像だけでこれだけ怖いのだ。

 きっと本人はもっと恐ろしかったはず……と考えたアナベルは、エルヴィスに向けて手を差し伸べる。

「アナベル?」
「……あたしが迫っても平気というのなら、この手を取って?」

 恋の駆け引きなんて知らない。

 だからこそ、自分が迫って拒絶されることを恐れて言葉に舌アナベルに、ふ、とエルヴィスが笑う。

 エルヴィスは彼女の手を取ってその胸の中に閉じ込めた。
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