【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 驚いて顔を上げるアナベルに、エルヴィスの顔が近付く。

 ちゅっ、と軽いリップ音を響かせてアナベルの額に唇が触れた。

 抱きしめられて、額にキスをされただけでも彼女は顔を真っ赤に染めて、夜で良かったと心から思った。

 もう一度、今度は頬にキスをされてアナベルはくすぐったそうに笑う。

 鼻先にも唇が触れて、焦れたようにアナベルの手がエルヴィスの頬に伸びる。こつん、と額と額が重なり、目を伏せるアナベルの唇にエルヴィスの唇が静かに触れた。

 触れるだけのキスを見ていたのは、数多(あまた)に広がる星々だけ――……

「……キスってこんな気持ちになるのね……」

 唇が離れて、うっとりとしたように恍惚の表情を浮かべるアナベルがぽつりとつぶやく。

 エルヴィスは彼女の唇をなぞるように、親指の中腹を動かした。

「どんな気持ちになった?」

 アナベルは胸元に手を置いて、そっと目を伏せて頬を赤らめたまま、言葉を紡ぐ。

「ドキドキして落ち着かないのに、離れたくないって気持ち。……不思議だわ……」

 エルヴィスはそれを聞いて、ぎゅっとアナベルを抱きしめた。

 身体が密着して高鳴る鼓動に、アナベルは彼の服を掴む。

 そして――くしゅん、と小さなくしゃみをした。

「……ああ、その恰好では寒かったな」

 抱きしめていた身体を離して、自身の上着をアナベルにかけるエルヴィスに、彼女は慌てて上着を返そうとする。

 しかしエルヴィスは、「きみが風邪をひいたら大変だから」と(かたく)なに拒んだ。
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