【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「――ごきげんよう、可愛いお嬢さん」
「えっ、と……あ、さっきの……」

 てくてくと歩いていると、声をかけられた。声の主は先程の少女。エメラルドの瞳がすぅっと細くなる。

「……あなた、とても可愛らしい顔をしていますのね」

 すっと少女の手が伸びて、アナベルの顎を掴んだ。

 そして、ジロジロと探るようにアナベルの顔を眺め、「ふうん」とつぶやく。

 少女の手から逃れようとしたが、まだ幼いアナベルは力任せで外すことができずにじっと彼女を見つめた。

「……なにをしているんだ、イレイン」
「可愛らしいお嬢さんの鑑賞ですわ、エルヴィス陛下」

 なにを当然のことを……と、イレインが口元に弧を描く。

 エルヴィスは、そんなイレインに視線を向けると、彼女の腕を掴んでアナベルを解放させた。

「ぁ、ありがとう、ございます……」
「いや。迷惑をかけてすまない。もう夕方になる。帰りなさい」
「は、はい……」

 逃げるように(きびす)を返すアナベルを、イレインはじっと目元を細めて眺めていた。なにかを思い付いたように、にやりと口角を上げる。

「行くぞ、イレイン」
「はい、エルヴィス陛下」

 エルヴィスの声に、イレインは彼の隣に移動すると、歩き出す。

 一度振り返り、アナベルの姿見えないことを確認してから、エルヴィスは前を向いて足を進めた。
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