【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
(どうしよう――……)

 重なった唇の感触を思い出して、目を閉じる。

 ごろんごろんと寝返りを打って、声にならない叫び声を上げた。

(触れるだけで、あんなに気持ちが高鳴るなんて――……!)

 ばふっと枕に顔を埋めるように押し付けて、ゆっくりと息を吐く。

 手や頬、額にキスをされたことはあるが唇にされたのは初めてだった。

 触れるだけのキスだけでもこんなに心臓がドキドキと早鐘を打つのに、これ以上進んでしまったらどうなるのだろう? とアナベルは想像して、耳まで真っ赤にさせる。

 明日も早いというのに、キスの感触を思い出しては身じろぐアナベル。

 書物や、踊り子仲間に聞いたことが脳裏によぎる。

 そのたびに思考が停止して、意味もなく頭を左右に振ったり、口元を手で覆ったりしていた。

(キスにも種類があるって、言っていたっけ……)

 触れるだけのキスに、舌を絡め合うというキス。

 アナベルが知っているのはこの二つだ。

 舌を絡め合うキスのほうは経験がないが、話に聞いたことや読んでいた小説の中に出てきていたので、なんとなく知っている。

(どんな感じなんだろう……)

 そんなことを考えていたアナベルに、睡魔はなかなか訪れてくれなかった。
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