【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子 アナベル 15話

 翌日からアナベルは、ちらちらとエルヴィスを見るようになった。

 その様子を旅芸人の同じ踊り子であるアドリーヌが、にんまりとした笑みを浮かべながら眺めている。

「アナベル」
「アドリーヌさん……」
「自分の直感、信じられそう?」

 慈愛に満ちた瞳を向けられて、アナベルは小さくうなずいた。

 アドリーヌがぎゅうっと彼女の腕に抱きつき、こてんと自分とアナベルの頭をくっつけるようにかたむけて、「応援するわぁ」と柔らかく声を出す。

「……ありがとう」
「うふふ。どういたしまして。忘れないでね、ここのみーんな、アナベルの味方だってこと」

 アナベルはそっと目を伏せて、「うん」と心からの笑みを見せた。

 じんわりと、アドリーヌの言葉が胸に沁み込んでいくのを感じながら。

 そんな様子を見ていたクレマンが、後ろから声をかける。

「腹は決まったか?」
「……そうねぇ、やれるだけ、やってみるつもり」

 空を見上げて、アナベルはつぶやく。

 そして、迷いの消えた晴れ晴れとした表情を彼に見せた。

(……覚悟が決まったら、決断早いのは相変わらずか)

 クレマンがそう考えていると、アドリーヌが「さびしくなるわぁ」と頬に手を添える。

「それじゃあ、歩きながらこれからのことについて話し合うか」
「これからのこと?」
寵姫(ちょうき)になる前に、貴族っぽく振る舞うことを覚えないといけないからな。王宮に入り、紹介の儀までのあいだに覚えることが多いぞ」

 アナベルはゾッとしたように身震いした。貴族っぽく振る舞うなんて、一度もしたことがない。
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