【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「なーに、大丈夫大丈夫。きちんと先生を用意してくれるだろうからな」
「先生?」
「陛下に味方してくれる人も、結構多いんだよ」

 エルヴィスの味方が本当に協力してくれるのだろうかと不安に感じつつも、自分で決めたことだからとアナベルはぎゅっと拳を握る。

 決意を宿した瞳を見て、アドリーヌはそっと彼女から離れてぽん、と肩を叩いた。

「舞を覚えたときのように覚えれば良いわよぉ。得意でしょ?」
「それは、まぁ……?」
「ま、良い先生に巡り会えたらいいな」

 三人で会話をしながら歩き、それを繰り返すこと数日。

 ついに王都ティオール到着まで、残すところ一日となり、アナベルはエルヴィスに寵姫の件を話そうと彼の姿を探す。

 彼の周りには護衛の騎士と踊り子たちがいたが、アナベルに気付いたエルヴィスが彼女のもとへ近付いた。

「……返事を聞かせてもらえるかい?」

 エルヴィスの瞳は、自信半分、不安半分のように見える。

 アナベルはじっと彼の目を見つめて、自分の胸元に手を添えた。

「あたしで良ければ、協力させて」

 決意の固い、芯の通った声が響く。

 エルヴィスは彼女の答えを聞いて、ほっと安堵したように息を吐き、アナベルの手を取って(ひざまず)いた。

「――ありがとう。心からの感謝を、貴女(あなた)に」

 (うやうや)しく手の甲に唇を落とすエルヴィスに、周りにいた踊り子たちから「きゃぁぁああ、素敵~!」と黄色い歓声が辺りに広がる。
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