【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 寵姫(ちょうき)になることを受け入れたからか、エルヴィスの近くを歩くアナベル。

 彼の(そば)には、護衛たちも歩いていた。

 相変わらず踊り子たちにちょっかいを受けているようで、困った顔をしながらも満更ではないようだ。

「……旅は楽しかったか?」
「え? ……まぁ、楽しかった、かな。最初のほうは覚えることがいっぱいで大変だったけれど、ね」

 ミシェルの教えは厳しかった。それでも改善できるところや、良くできたところは常に声をかけてくれたから、ついていくことができた。

 ミシェルが亡くなってからは、一時期塞ぎ込んだりもしたが、一番つらかったであろうクレマンが気丈に振る舞っていたことを知っていたし、旅芸人の仲間がアナベルの心に寄り添い、支えてくれた。何度感謝しても、感謝しきれないくらいだと、アナベルは話す。

「――あたしの血の繋がった家族は亡くなったけれど、この一座もあたしの家族なの。だから、がんばれた……と思う。旅自体も嫌いじゃなかったしねぇ。小さな村で育ったからかな? 見るものすべてが新鮮だった」

 旅をしてきて見てきた景色を思い出し、柔らかく目元を細める。それでも、幼い頃からずっと復讐心を温めてきた自分に息を吐く。

 ――やっと叶いそうだと、アナベルは恍惚の笑みを浮かべた。
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