【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子　アナベル　２話

　予定通り、国王のエルヴィスと王妃のイレインは一日滞在して、別の視察地へと向かった。村人全員で見送る。

　小さくなっていく馬車をアナベルが見つめていると、ずっと頭を下げていた大人たちが顔を上げて深いため息を吐いた。

「ああ、緊張した。こんなに緊張したのは久しぶりだよ」
「おや、緊張したことがあるのかい？」
「そりゃあもちろん、お前さんにプロポーズしたときさ」

　村長夫妻がいちゃいちゃとしながら会話を繰り広げていると、村長の孫でアナベルよりも一歳年上の幼馴染のシモンが彼女に近付いて、ずいっと腕を伸ばして花を差し出した。

「お花？」
「さっき見つけたんだ。やるよ」
「……ありがとう」
「あら、良かったわね、アナベル。このお花は花瓶に飾ろうね」

　シモンは少しだけ嬉しそうに笑ってから、パタパタと足音を立ててどこかに駆けていく。

「うーん、将来の息子か……？」
「気が早いわよ、あなたったら」

　呆れたように肩をすくめる母の姿に、アナベルは首をかしげた。

　家に戻り、シモンからもらった花を花瓶に生けると、彼女はその花をずっと眺めて小さく微笑む。

　この村にあるのは木々や畑、そして花だ。

　色とりどりの花は、村人たちが大切に育てている。

　アナベルだって、できることは自分でしている。少しでも家族の役に立ちたくて。

　それでも、まだ五歳で非力なアナベルには、本当に簡単なお手伝いしかできなくて少し悔しそうに唇を尖らせていた。
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