【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 そうだ、と首を縦に振るエルヴィスに、アナベルはちらりと彼を見て、不安そうに眉を下げた。

「どうした?」
「王城ってかなり広いんだろうなぁと思って。迷子になりそう」
「はは、私も幼い頃は決まったところにしか行けなかった。迷子になるから」

 当時を懐かしむように笑うエルヴィスに、アナベルも小さく笑った。

 いろいろな話を楽しんでいるうちに、目的地の近くまでつき、馬車を降りる。

 エルヴィスに手を引かれながら歩き、大きな……とても大きな門の前に辿りついた。

 ごくり、とアナベルが唾を飲み込む。

 エルヴィスが門番になにかを小声で話すと、すぐに門が開いた。

「さぁ、行こう」
「……はい」

 アナベルはエルヴィスとともに、歩き出す。

 これから出会う人に期待と不安を混じらせながらも、背を伸ばして前を見据え、迷いのない瞳と口角を上げて笑みを浮かべながら歩いている。

 エルヴィスの手をぎゅっと握る。アナベルの手は、緊張でひんやりと冷たくなっていた。

 きゅっと彼女の手を握り返すエルヴィス。

 ちらりと彼に視線を向けて、ほんの少しだけ安堵したように、少しだけ表情を緩ませた。
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