【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 にっこり、と満面の笑みを浮かべるアナベルに、エルヴィスはそっと彼女の手と自分の手を重ねた。

 アナベルは顔をエルヴィスに向けると、彼は彼女を安心させるように微笑む。

「ダヴィド、彼女を貴族に見せても大丈夫なように、徹底的に仕込みたい。教育係を用意してもらえないか?」
「ほんっとうに彼女を寵姫(ちょうき)にするつもりなのか……。徹底的にやったとしても、彼女は平民だろう? いずれボロが出るんじゃないか? それとも、そちらのほうが良いのか?」

 考えるようにダヴィドは目を伏せて、顎に手をかける。

 そして、ちらりと二人を見て、「ふむ」とつぶやく。

「一応、伝手(つて)はあるが……。そもそも、彼女をどこで見つけたんだ? 王妃に対して負の感情を持っている平民なんて、珍しくないか?」

 彼の問いに、エルヴィスはアナベルの手をぎゅっと握る。にっと口角を上げて、こう紹介した。

「彼女は旅芸人の踊り子だ。剣舞は見事なものだったぞ」
「えっ、陛下、あたしの剣舞を見ていたの?」

 目を丸くするアナベルに、エルヴィスは肯定のうなずきを返す。

 すると、ぱぁっとダヴィドの表情が明るくなった。

「旅芸人!? そりゃあいい! 近日パーティーをする予定だから、余興として芸を披露してもらおうか」

 両腕を大きく広げ、目をキラキラと輝かせるダヴィドに、アナベルは「あたしでよければ……」と胸元に手を置く。
< 79 / 255 >

この作品をシェア

pagetop