【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 一歩遅かったら、自分もそのような扱いを受けていたのかもしれない。

 そう考えると、あのとき魔物と遭遇し、崖から落ちたことは不幸中の幸いだったのかもしれないとしみじみ感じる。エルヴィスが彼女の不安を緩めるように、そっと抱きしめた。

「……陛下?」
「いや、今までたくさん苦労してきただろう。イレインを廃妃にしたあとは――……」
「それを言うのはまだ早いわ。敵をしっかりと、根本から取り除いてからじゃないと」

 未来のことよりも、今、できることを。

 王妃イレインを廃妃にしたあとのことより、どうやって彼女を廃妃にするかを考えなければならない。

「――本当、良い女性を見つけたな、エルヴィス」
「そうだろう? ……では、私が留守のあいだのことを聞かせてもらえるか?」

 アナベルとダヴィドを見て、ソファに座るようにうながす。

 ダヴィドは執事にお茶を用意するように頼み、執事はすぐにお茶とお茶菓子を用意して戻ってきた。

 紅茶とマカロンがローテーブルの上に置かれると、執事は一礼して部屋の外に出ていく。

 どうやらダヴィドとエルヴィスの視線を受け、自分がこの場にいるべきではないと判断したようだ。

「……相変わらず、王妃の宮殿で自由に過ごしているぜ」
「そうか」
「お前が魔物討伐に向かってから数ヶ月。そのあいだに亡くなったのはメイドが三人ほど、だな」
「メイド……?」
「ああ。確か子爵家の令嬢で、意気揚々と『王妃陛下に仕えられるなんて幸せです』って目を輝かせていた子たちだ。もちろん、王妃よりも若い少女だった」
< 81 / 255 >

この作品をシェア

pagetop