【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 にっこり。

 ダヴィドの笑みにアナベルは目を(またた)かせた。

 言葉は確かにイレインへの憎しみを感じるような声色だったから、彼の言葉に嘘偽(うそいつわ)りはないと感じて、アナベルは口を開く。

「……どうして、と聞いても良いのかしら?」

 (うかが)うようにダヴィドを見つめるアナベルに、彼は首を縦に動かした。

「――俺の婚約者が、王妃に殺された」

 ダヴィドはつらそうに顔をうつむかせ、アナベルにとって衝撃的な言葉を紡ぐ。

「……殺された?」
「そうだ。彼女はアレルギーを持っていたのだが、お茶会で……」

 すべて聞かなくても理解できた。アレルゲン物質が入ったものを口にしたのだろう。

「……俺が傍にいないときにやられた。視察に出たときを狙っていたんだろう。王妃に誘われて、参加しないわけにもいかなったからだろうな」

 きっと、婚約者のことを心から愛していたのだろう。

 当時を思い出したのか、ぎゅっと手を組んで忌々しそうに息を吐く。

「きみがエルヴィスに協力するというのなら、俺も協力する。あの王妃は、国を滅ぼすための存在にしか思えない」

 その声は震えていた。おそらく、婚約者を亡くして自分を責め続けていたのだろうと考え、彼の心情を思いアナベルは唇を結んだ。

 ローテーブルに手を置いて身を乗り出し、微笑みを浮かべる。

「――必ず、王妃サマに復讐しましょう」
「……本当、良い()をしている。それじゃあ、まずは近日のパーティーの手筈から、話し合おうか」

 ダヴィドは顔を上げてアナベルを見て、その瞳に宿る復讐の炎を感じ取ると、ふっと微笑んでからパンッ! と両手を叩いた。

 エルヴィスが「そうだな」と答えて、旅芸人の一座がこの王都にきていることを伝えると、彼は目を大きく見開く。
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