【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 キラキラと目を輝かせるアドリーヌに、アナベルはくすりと微笑む。

 彼女の言葉が、自分の気持ちを落ち着かせるためだと考えて、ベッドに近付いてそっと腰を下ろした。

 顔を上げたアドリーヌ。アナベルは彼女と視線を合わせる。

「みんなと一緒にいられるのは嬉しいわ。だって、これからは会えなくなるでしょう?」
「そうねぇ、あたしだって嬉しいわよぉ? アナベルと一緒にいられるのは。でもねぇ、ここにあたしがいたらお邪魔虫になるんじゃないかしらって、思っていたのよねぇ」

 うつぶせの状態で、パタパタと両足を動かすアドリーヌに、アナベルは小さく首を横に振った。

「陛下とは、これからたーーーーっくさん、いられるもの。それに、明日が本番だから、ちょっと緊張しているの」

 アドリーヌはむくりと起き上がり、アナベルの頬に両手を添える。

 こつん、と額と額を合わせて目を閉じた。

「大丈夫よぉ、アナベルなら……あなた、本番にはものすっごく! 強いんだからぁ」

 アドリーヌの言葉は、アナベルの心にすっとしみ込んでいく。

 そっと目を開けるアドリーヌの(くれない)の瞳が、アナベルを映した。

 緊張しているから冷えている手を、アドリーヌの手に重ねるアナベルの瞳には、炎が宿っている。

「……ありがとう、アドリーヌさん」
「うふふ、こちらこそ。こんなに良い部屋で寝泊まりできるなんて、幸せだわぁ」

 弾むような声に、アナベルはふふっと表情を(ほころ)ばせた。
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