【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……よろしくお願いします」

 アナベルの返事に、またざわめきが強くなる。

 エルヴィスはすっと手を差し出し、彼女はその手を静かに取った。ゆっくりと、手の甲に唇が落ちるのを見て、貴族の女性たちがキャア! と黄色い悲鳴を上げた。

 どこからか、拍手の音が響く。

 拍手の音を辿るように顔を上げると、ダヴィドがにんまりと笑みを浮かべて手を叩いていた。

 それを見た人たちも、パチパチと拍手をし始める。

 アナベルとエルヴィスは顔を見合わせ、指を絡め合うように繋ぎ直し、にっこりと微笑んでみせた。

 エルヴィスとアナベルはステージを下りて、ダヴィドに近付く。

「とても素晴らしいものを見せてもらった。旅芸人の一座には、これほど美しい女性がいるのだな」
「まぁ、美しいなんて……うふふ」

 嬉しそうに目元を細めるアナベル。

 どんな会話をしているのかと、耳を澄ましている人たちに聞こえるように、アナベルの美しさを話すエルヴィス。

 そわそわと彼女たちに近付いてきた人たち。どうやら声をかけたいようだ。

「――おや、これはブトナ男爵。久しいな」

 まさか自分に声をかけられるとは思わなかったらしい彼は、アナベルとエルヴィスを交互に見て、「いやぁ、お久しぶりでございます」と頭を下げる。

(――先日、教えてくれた人ね。ブトナ男爵は、王妃サマ(イレイン)側。早速様子を探りにきた……ってところかしら?)
< 95 / 255 >

この作品をシェア

pagetop