【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 アナベルは一歩前に出て、汗をかいているブトナににっこりと満面の笑みを浮かべてみせた。

 ――彼女には、自分の笑みに自信がある。

 だからだろうか、ブトナはぶわっと顔を耳まで真っ赤に染め、すいっと視線をそらす。

 ハンカチを取り出して汗を拭き、ふう、と息を吐いたブトナは、エルヴィスを見上げた。

「へ、陛下。彼女を寵姫にするおつもりですか?」
「ああ。これだけの美しさだ。機会を逃せば二度と手に入らないかもしれないだろう?」

 エルヴィスは繋いでいた手を離し、アナベルの腰に手を回して、ぐいっと引き寄せる。

 アナベルは目を丸くしてエルヴィスを見上げ、それから艶妖(ようえん)に微笑んだ。

 そっと彼に身を預けるように、頭をかたむける。

「――さて、用がそれだけならば、私はここで失礼しろう。ダヴィド、彼女をこのまま(さら)っても?」
「彼女が良ければね」

 ちらりとアナベルを見るダヴィド。アナベルは目元を細め、口を開いた。

「――攫ってくださる?」
「――貴女(あなた)のお望みのままに」

 甘えるような声を聞き、エルヴィスは彼女の髪にちゅっと唇を落とす。

 パーティー会場内の女性たちは「まぁ、本気なのですね……!」と黄色い声を上げていた。

 ドラマチックね、なんて声も聞こえてくる。

 アナベルとエルヴィスは互いに視線を(まじ)えて、小さくうなずき……そのままパーティー会場をあとにした。
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