【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「幻想の魔法は、そんなこともできるのか」
「魔法の使い方は人それぞれだけど……、ハズレを引いてくれることを祈るしかないわね」

 くすっと笑うアナベルに、エルヴィスは大きくうなずき馬車に乗った。どうやら御者とはすでに話を通してあったらしく、アナベルたちの馬車が動き出すと、二台目も走り出す。

「さて、襲撃はあるかしら?」
物怖(ものお)じしないな、きみは」
「か弱いレディってわけじゃないもの」

 肩をすくめるアナベルに、エルヴィスは「そうだな」と小さくうなずく。

 ――自分で言っておいて、同意を得ると少し悲しそうに目を伏せる彼女に、くつくつとエルヴィスが喉を鳴らして肩を震わせた。

「あ、ひどい!」
「いや、すまない。……ところで、これからのことなのだが」
「はい」

 少しだけ頬を膨らませたアナベルだが、エルヴィスが真剣な硬い声を出すと、表情を引き締めて彼を真っ直ぐに見る。

「親愛感を出すためにも、私は『ベル』と呼ばせてもらっても良いか?」
「構いません。あたしも愛称で呼んだほうがいいですか?」
「いや、呼びづらいだろうから……」

 否定はしなかった。

 こうして隣にいるだけでも胸はドキドキと高鳴り、心身ともに緊張してしまう。

 なんでもないように振舞ってはいたが、内心いつも鼓動は早鐘を打っていた。
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