Will you marry me?
そして、自己主張の強い妹より、地味な姉の方が扱いやすいと思ったに違いない。
そんなこと、ずっと昔からわかっている。
「仕事に行きます」
もはやなにも言う気になれないし、この場を離れたかった。

その日、仕事を終えて、敷地内にある小さな離れの自分の部屋に戻る。
殺風景でベッドと文机があるだけの和室。そこに、簡素な花瓶に一輪の橙色の岩菫の花と、濃い緑色の一枚の葉。それがこの部屋に唯一ある色彩かもしれない。

丸窓から見える月を眺めながら、私は空虚な気持ちでぼんやりとしていた。
そしていつしか涙を流している自分に気づく。

自分でもなんの涙かはわからない。今は誰も見ていない。誰にもとがめられることもない。
母が生きていたら、こんなとき何か声をかけてくれるのだろうか。
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