Will you marry me?
父と愛のない結婚をして不幸だった母。同じ道を歩む娘に、どんな言葉をかけてくれたのだろう。いつからか自分のことは自分でやることが当たり前だし、無駄に誰にも期待などしなくなっていた。それなのに涙ご零れるのは、どこか少しだけ、今の状況から助け出してくれる運命の恋を夢見ていたのかもしれない。
「バカだな……私」
そう呟いて、涙を拭う。
私は家のために政略結婚をし、今度はあの冷徹な先生の言うことを聞いて生きて行くだけだ。相手が両親から彼に変わるだけ。誰も信じなければ傷つくこともない。だから大丈夫。そう自分に言い聞かせた。

その週末、すぐに彼の秘書の男性が迎えに来ることになった。一度、先生と会い、これからのことを決めてほしいとのことだった。時間になり、出かけようとした私の元へ父と妹がやってくる。決して見送りなどではないことは、二人の顔を見てすぐにわかった。

「菜々子、下手なことをしたら承知しないからな。絶対に先生に気に入られろ。どんな手段を使ってもだ」
< 16 / 45 >

この作品をシェア

pagetop