Will you marry me?
そんな時だった。

「お母様、嫌よ! ちょっと離して」
そう言えば朝から母の姿も見えなかった。そんなことを思いつつ廊下に目を向けると、母に連れられた瑠菜の姿が見えた。

「どうして、私が見ず知らずの男と結婚しなきゃいけないのよ」
やっぱり。
彼の姿をまだ確認していなかったのかもしれないが、ばっちりと聞こえてしまった声に、父が慌てた様子を見せる。

「私は秘書に仕事の話だと聞いてきましたが、そうでないのなら失礼します」

決して声を荒げているわけではないが、地を這うような低い声に、彼の怒りはもっともだと思う。だまし討ちのような形で見合いの席を用意して、その娘が暴言を吐いているのだ。不愉快極まりないはずだ。

「いや、君はすべての縁談を断ってると仲間内で聞いた。だからこの手段を……。きっと君もうちの瑠奈を見たら了承するはずだ」

開き直ったような父に、あきれるやら恥ずかしいやら私は、慌てて先生に頭を下げた。
「先生、我が家が大変無礼な数々を。お許しくださいませ」
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