桜花彩麗伝
◇
「事は順調か」
宮中────執務室を訪った航季の一礼を受けると、容燕は開口一番にそう尋ねた。
「はい、父上」
その返答を聞くなり満足そうに低く笑い、容燕は髭を撫でる。
「王室の分を除いて薬材を買い占め品薄にし、民の不満をすべて王族に向ける……。そして、絶望する民に我々が薬材を配給することで救いの手を差し伸べる。これで民心は王から離れ、蕭家を支持することでしょう」
航季は父の弄した策を改めて口にし、そんな未来を想像して思わず口元を緩めた。
誰もが自分にひれ伏し、崇め奉ることになるのだ。
もともと民たちは王に何の期待もしていない。
ない民心をさらに失うとは、何とも救いようのない話である。
容燕の双眸に冷酷な色が滲んだ。
「……柊州の疫病が都でも蔓延すれば、さらに薬の需要が高まるな」
玻璃国は桜州、葵州、楓州、柊州の四州に別れており、柊州は南東部に位置する。
容燕はその掌握を目論んで動き始めていた。
商業が盛んな柊州は、商取り引きの要とも言える地だ。
蕭家が制圧してしまえば、資金繰りも思うがままである。
容燕はその柊州で意図的に疫病を流行させ、薬材の需要を高めていた。
ここ桜州へ患者が流入し、王都である雛陽にまでなだれ込めば、疫病はさらに猛威を振るうことになる。
しかし、ここにも既に特効薬をはじめ薬材はない。
持っているのは蕭家のみだ。絶望に喘ぐ民たちを救えるのは、蕭家しかいないのである。
既に柊州の悪党を抱き込み、彼らに商団を制圧させ、柊州内の薬材を回収し始めている。
このまま商団の制圧を続ければ、資金の運用を意のままにできる────そんな算段であった。
財も名声も得られ、一石二鳥だ。
「さすがは父上です」
心からの賞賛を送ると、容燕もさらに機嫌をよくしたようだった。
患者たちの「助からないかもしれない」という焦りは、薬材を独占している王族への怒りへと変わり、それが募れば憎しみになる。
実際に独占しているのは蕭家で、王室は何ひとつとして関与していないわけだが、民たちはそんなことを知る由もない。
「事は順調か」
宮中────執務室を訪った航季の一礼を受けると、容燕は開口一番にそう尋ねた。
「はい、父上」
その返答を聞くなり満足そうに低く笑い、容燕は髭を撫でる。
「王室の分を除いて薬材を買い占め品薄にし、民の不満をすべて王族に向ける……。そして、絶望する民に我々が薬材を配給することで救いの手を差し伸べる。これで民心は王から離れ、蕭家を支持することでしょう」
航季は父の弄した策を改めて口にし、そんな未来を想像して思わず口元を緩めた。
誰もが自分にひれ伏し、崇め奉ることになるのだ。
もともと民たちは王に何の期待もしていない。
ない民心をさらに失うとは、何とも救いようのない話である。
容燕の双眸に冷酷な色が滲んだ。
「……柊州の疫病が都でも蔓延すれば、さらに薬の需要が高まるな」
玻璃国は桜州、葵州、楓州、柊州の四州に別れており、柊州は南東部に位置する。
容燕はその掌握を目論んで動き始めていた。
商業が盛んな柊州は、商取り引きの要とも言える地だ。
蕭家が制圧してしまえば、資金繰りも思うがままである。
容燕はその柊州で意図的に疫病を流行させ、薬材の需要を高めていた。
ここ桜州へ患者が流入し、王都である雛陽にまでなだれ込めば、疫病はさらに猛威を振るうことになる。
しかし、ここにも既に特効薬をはじめ薬材はない。
持っているのは蕭家のみだ。絶望に喘ぐ民たちを救えるのは、蕭家しかいないのである。
既に柊州の悪党を抱き込み、彼らに商団を制圧させ、柊州内の薬材を回収し始めている。
このまま商団の制圧を続ければ、資金の運用を意のままにできる────そんな算段であった。
財も名声も得られ、一石二鳥だ。
「さすがは父上です」
心からの賞賛を送ると、容燕もさらに機嫌をよくしたようだった。
患者たちの「助からないかもしれない」という焦りは、薬材を独占している王族への怒りへと変わり、それが募れば憎しみになる。
実際に独占しているのは蕭家で、王室は何ひとつとして関与していないわけだが、民たちはそんなことを知る由もない。