桜花彩麗伝
紫苑の示唆した通り、紅蓮教と蕭家が繋がっているというのはありうる話である。
特に櫂秦としては大いに頷けた。連中の罪は百馨湯の独占だけではないのだ。
それらをただの野蛮な集団でしかない教徒たちが成し遂げられるわけもなく、蕭家が後ろ盾だとすれば合点がいく。
たとえば紅蓮教は金儲けが、蕭家は柊州の掌握が目的なのかもしれない。
「……ところで、櫂秦。商団はどうなってるんだい?」
「色々あって立ち行かなくなったから休止中。成員もみんな解雇した」
「“色々”……」
「それから俺は本家に逃れたんだけど、兄貴は追い出されて……」
本家に反発した櫂秦も家を出た。根城に忍び込むより前は紅蓮教の追っ手から逃げながら、生き別れた兄を捜していたのである。
「お兄さん、確か名前は珀佑と言ったよね」
「ああ、おまえなら何か知ってたりするんじゃねぇか?」
「……残念ながら」
光祥は眉を下げ、肩をすくめた。情報通の彼ではあるが珀佑の情報は掴めていないようだ。
見るからに落胆した調子で櫂秦は「そうか」と俯く。
暫時落ちた沈黙は、ややあって破られた。
「────櫂秦、これから行くあてはあるの?」
「……んー、ねぇな」
春蘭に問われ、あっさりとそう返す。
柊州へ帰ることが危険であるというのに加え、啖呵を切って本家を出た手前、戻ることもできない。
各州にある楚家の別邸も排他主義的な親戚のせいでひどく居心地が悪く、山で明かし暮らした方がマシなほどだ。
「だったら、うちで過ごすといいわ。追われる身なら尚さら。ここなら安全だから」
「いいのか?」
「ええ、お父さまも笑って許してくれるはず」
────果たして春蘭の推測通りであり、かくして櫂秦は鳳邸の居候となった。
しかし、元明と見えたときも彼は態度を改めず、そのふてぶてしさに紫苑はまたも秀眉を逆立てる羽目になったのであった。
◇
「陛下! 陛下!」
蒼龍殿へ響いてきた声にびくりと肩を跳ねさせた煌凌は、盗み見ていた上奏文の巻子を慌てて巻き直した。
飛び込んできたのが清羽であると気がつくと、ほっと胸を撫で下ろす。
「な、なんだ。驚かすでない」
「申し訳ありません。ただ、その……大変です。太后さまがお目にかかりたいと」