桜花彩麗伝

 唐突な割に衝動的な発言ではなかったらしく、彼の双眸(そうぼう)に迷いはなかった。
 春蘭はきょとんとしてしまう。

「仲間?」

「ああ、今回のこと……いや、これからもかな。おまえのやりたいことが叶うように、俺は全力で手を貸す」

 息をのむほど鮮やかな言葉だった。すとんと心に落ちて浸透していく。

「今度は俺が助けるから」

 決然たる眼差しは、それでいて優しげな色を秘めていた。
 あたたかい感情が広がっていくのを感じながら、春蘭は頬を緩める。

「……ありがと、櫂秦。嬉しいわ」

 でもね、と穏やかな語り口で続ける。

「仲間かどうかなんて線引きは、あなたが勝手に決めてくれていいんだからね。見返りが欲しくて助けたわけじゃないし」

「────じゃあ決めた。俺はおまえらの味方だ」

 櫂秦は口端を持ち上げ強気に笑んでみせた。
 裏腹のないまっすぐな言葉は眩しいほどで、その玲瓏(れいろう)な響きに春蘭も笑顔をこぼす。心に灯がともったようだった。

 紫苑は口を(つぐ)んだまま思わず櫂秦を眺める。不意に胸を突かれた気分だ。

 自分は春蘭の役に立てているのか、そんな心身にこたえるような問いかけが再び頭をよぎった。
 座っているのに地面が揺らいだ気がした。

「……っつーことで、さっそくなんだけど仲間の俺から頼みがある。おまえが茶会に行ってる間、紫苑のこと貸してくれねぇか?」

「え」

「紫苑を? どうして?」

 またしても不意を突かれる形となった紫苑は困惑気味に瞬く。春蘭も首を傾げた。

「一緒に柊州まで行って欲しいんだ。百馨湯を配るのを手伝いに」

 そういえば、いくらかのそれは商団が確保していると言っていた。

「だったらわたしも行くわ。人手がいるでしょ? それに、もともと提案したのはわたしよ。危ない目に遭うかもしれないのに、ふたりにだけ押しつけられないわ」

「いいから、おまえは茶会に集中しろよ。俺と紫苑がいて危ないわけねぇだろ? 護衛ってことは腕も立つだろうし……な?」
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